蝉時雨を追いかけて
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その夜、おかっぱの提案でいつもより早い時間から夜の練習をはじめることになった。
反省会もかねてということだ。おかっぱは、まだ情熱をうしなっていないようだった。
まったく歯が立たなかったのが、あいつにとっては逆によかったのかもしれない。
中途半端に通用していたら、きっとまた練習をしなくなっていただろう。
おれは七時ごろ家をでた。いつもより二時間早い時間だ。
走って公園まで行くと、ベンチにカップルが座っていた。
おれはベンチ後方の林に身を隠して、そのふたりを見た。
なんとなく見覚えがあるような気がしたからだ。その勘は、当たっていた。
座っていたのは、拓馬と北村麗華だったのだ。
ふたりは無言で見つめ合い、そして、キスをした。
その瞬間、公園の向こう側、ベンチを正面から見られるあたりが光った。
光ったのはほんの一瞬で、目を凝らしてもなにも見えない。