蝉時雨を追いかけて
「誰だ!」


 拓馬が叫んだ。だが、反応はない。カメラのフラッシュだったのだろうか。

だれかがふたりのキスシーンを撮影した? おれは、裏サイトの存在を思い出した。

ふたりの恋愛を、気にしているやつがいるのだろうか。

わざわざ、カメラをもってふたりを見張るほどに。

告白された日だって、信じられないほどはやく、情報が書き込まれていた。

もしかしたら、それを書き込んだ人物とおそらくカメラでキスシーンを撮ったであろう人物は同じなのだろうか。


 拓馬と北村麗華は、そのまま逃げるように去っていった。

おれはその姿を見送り、木の陰でぼんやりとしていた。

しばらくその場にいたが、「いつもより早く練習を始めるわよ」と提案したおかっぱは、姿を現さなかった。
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