蝉時雨を追いかけて
***
部屋に戻ると、いつものようにおかっぱから電話がきた。
――あ、拓海? 聞いてちょうだいよ。今日、大変なことがあったのよ。
「なんだよ」
――それがね、納豆ちゃんに嫌いって言われちゃったのよ。
「なんだ、普通のことじゃないか」
――普通じゃないわよ。今日タキシード着たり香水付けたり、気合入れてデートに行ったんだけどね、いつも通りのオレが好きだって言われたのよ。
「ああ、そうか」
とうとうおかっぱは耳までおかしくなってしまったか。ここはほっとくことにしよう。
――アラ? 拓海、なんか元気ないわね。マネージャーとなにかあったの?
「なにもないよ」
あいかわらず、おかっぱのするどさには恐れ入る。
だけど、北村麗華となにもなかったのは本当だ。
なにかあったと言うなら、拓馬とのことなのだから。