ラグナレク
ACT.1 OPENING

The Opening

―――崩れた瓦礫の山と、薄暗い空により色付けされた、灰色の世界。そこには無と空虚しか存在せず、一切の光も有りはしない。




あちらこちらから漂う、黒い煙。何かが燃えているのだろう、目視した先には、黒焦げになった塊が存在した。




『僕』は、モノトーン色に統一された世界を、空から―――或いは、神の視点から―――見下ろしていた。




『僕』………いや、『僕』であろう存在は、瓦礫の山の中に、その風景に相応しくない明るい色を目にした。とりわけ目立つほぼ原色の青色をしたTシャツを着ている―――半ば五、六歳の少年であった。




少年は、畏れもせず、哀しみもせず、ただただ感情を欠落したかのような徹底した無表情で、一切の衆生を失った世界を見つめていた。
『僕』は少年を眺めた。………特に意味はなかったが、何故か少年から眼を離すことが出来なかった。




ふと、少年が『僕』を見た。少年を眺めていた『僕』と、視線が衝突する。




―――瞬間。
『僕』に奇妙な感覚が襲い掛かった。………まるで、彼を昔から知っているような、そんな気持ちの悪く、不思議な感覚が。




そして再び湧出する、ぬめりとした身体中を這われるかのような不快な感覚。




―――この子は、『僕』―――?




何故かしら、そのような気がしてならなかった。最早、そこに意味はない。なぜなら、『僕』にとて何が何なのか解らないのだから。




なら、僕は―――『誰』?








浮かんだ疑問に答えるべくもなく―――突如、世界が歪んだ。
少年の姿も朧げになり、灰色の夜の宵闇へと、どろりと溶ける。この世界の崩壊が近いというのは、目に見えて明らかだった。




………『僕』は、静かに瞼を下ろす。
次第に『僕』の意識は遠退いてゆき、暗闇に呑まれてゆく。
薄れていく意識の中、これが夢であったという事に気が付き、覚醒が近付く程に辺りへは光が広がっていったのだった。
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