ラグナレク
………何であんな楽しそうなんだ、あの人………。

目に見えてわくわくしながらポケットに手を入れ、ごそごそとしている教官を冷ややかな目で見つつ頭を左右に振った。
少ししてから、嬉しそうに「あったあった」と取り出した物は、バリーが僕に渡してくれた審査の通知のプリントに負けず劣らずぐしゃぐしゃになった紙だった。
教官は適当な手つきで紙を拡げると、もう一度咳をはらい、たっぷりと息を吸い込んでから芝居がかった口調で話―――というより演説だろうか―――を始めた。








「………遂に本日は、君達が今まで目標としてきたものが実現するかどうか―――、それが決まる重要な日である。勿論、これを逃せば同じ機会が二度と訪れる事はない。だからこそ、今日という日に向けて重ねてきた訓練の成果を存分に発揮し、自らの夢を掴んで欲しいと切に願う。―――では、健闘を祈る」








教官は話し終えてから暫く今までに見た事もないような真面目な顔をしていたが、すぐさま顔をだらしなく歪め、隣に立つ女性教官に「どうだった?」とか「様になってた?」だとか、にやにやしながら質問を重ねていた。うざったそうに顔をしかめる女性教官は、傍から見ると完全にナンパしているオヤジと化している男性教官を腕で制しながら、審査の説明を始める。








「―――それでは、私から本日の審査についての説明を………。審査は筆記試験、実技試験、そして実際に『Hi-MAT』に搭乗した事を想定し、バーチャル機器を用いた実践訓練の三つから成り立ちます」








………何だって?
僕は顔に驚愕の色を浮かべ、口をあんぐりと開けた。しかし、自分がしているであろう顔を想像して頬を赤らめながら辺りを見渡すと、同じような表情をした受講者が数人いた為、少しだけ安堵する。
教室は最後の一言により、先程まで凍り付いていたのが嘘だったかのようにざわざわとどよめきだした。








「―――静かに、静かに!………動揺するのも無理はないとは思いますが、実戦訓練の直前に機体の操縦方法は理解して頂けると思いますので、心配は不要かと。―――何か、質問はありますか?」








女性教官は疲れ切ったようにそう言うと、誰からも反応無いことを確認してから額の汗を手の甲で拭う仕草をしてみせた。
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