ラグナレク
―――あれから、五時間程が経過しただろうか。




僕とバリーは特に苦戦することも無く筆記テストをパスし(といっても、合格者の発表があるまでバリーの顔は今までに見た事がない位に青ざめていたが)、続けて実技試験もクリアーした僕とバリーを含めた十人は、シミュレーターによる実戦テストを間近に控えていた。
すぐにテストに取り掛かるのだろうかと思っていたが、お昼時ということで一先ず僕達は休憩時間を与えられることとなり、僕とバリーは貸し切られた教室で配布された弁当を食べることにした。空調機に冷やされて、きんと冷たくなった椅子に僕とバリーは腰掛ける。







「………疲れた………」








バリーは顔をしかめながら、深い溜息をついて呻く様に呟いた。僕は一度だけ同意だという事を示す為に頷くと、配給された弁当の蓋を開けた。そこで視界に飛び込んだおかずが意外過ぎる程に豪華であったため、少し驚き眼を剥く。僕より少し遅れて弁当の蓋を開けたバリーは途端に目を輝かせ、先程まで死にかけていたことが嘘であったかのように、物凄い勢いで飯を口へと運び始めた。
口一杯に飯を溜め、もごもご言いながら彼はハムスターみたいに膨らんだ口を開く。








「それにしても、もう実戦テストまで辿り着いたのか。なーんか、案外楽勝だったよなあ」








―――さっきまで今にも倒れそうなくらい青冷めてた奴が吐く台詞かよ、と突っ込みたい気持ちを懸命に押し殺す。
―――反応したら負けだ―――なんとなくそんな気持ちになった僕は、黙々と米を口に運ぶ。
何か反応がないものか、と暫く僕を見つめていたが、僕がバリーをちらりとも見ず、微動だにしないのを確認すると、諦めて再び弁当を食べる事に専念し始めた。
ようやく彼が落ち着いたのを目で確認し、僕は安堵しつつ温くなったお茶を一口煽る。べたついた喉の奥が、洗い流されるのを感じる。

リセットされた物寂しい口の中に次のおかずを放り込もうと、魚介類のフライをフォークで突き刺した瞬間―――。








「―――ちょっといいかしら?」








突如背後から向けられた、どこかしら刺を帯びた甲高い声に僕は反応し、フライを弁当箱に戻す。
僕が振り向いた先に屹立していたのは、威風堂々とした雰囲気を醸し出しながらも、若干のあどけなさを残している少女だった。
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