ラグナレク
「………貴方が、レイ・アンセスター?」








なかなかにきつい彼女の話し方に、僕はなんとなく叱られているような気持ちになりながらこくりと頷く。
僕が『レイ・アンセスター』当人であることを確認した彼女は、顔色も口調も変えることなく淡々と続ける。








「あなた一人だけ、圧倒的な成績で試験をパスしていると聴いているわ」

「………あー、うん。まあね」








その事実を適当にはぐらかすのも面倒臭かったため、僕はあまり興味がないといった風にぽつぽつと答えてみせた。彼女はそんな僕を見ると、始めて口元に微笑を湛えて手を僕の方へとすっと差し延べた。それが僕に対して握手を求めているのだということに気がつくと、それに応じて手を伸ばし、彼女の白く繊細な手をそっと握る。








「私、クレイ。『クレイ・アルセイフ』。よろしく」

「………レイです。こちらこそよろしく」








クレイと名乗った紅髪緋眼の少女は手を離すと、その円く大きな緋眼の焦点を僕の背中側に合わせた。

―――僕の後ろには、未だ弁当をがつがつと食べ、まるで彼女の存在に気がついていない大男がいた。僕が彼を小突くと、彼は口回りにご飯粒をたくさんつけたその顔を僕の指先が示す向きに上げ、彼女を見る。
バリーはクレイと眼を合わせた途端一瞬逡巡し、意識が戻ると焦って口元を拭ってから急にしゃんとした姿勢をとった。その表情や動きから、彼が明らかに緊張しているのだろうということは想像に難くない。
バリーは一見派手な遊び人のような容貌ではあるが、隊の都合上女性と触れ合う機会が極端に少ないこともあり、女性と話すのが非常に苦手なのだ。女性の上官が来る度に毎度毎度彼の心臓は早鐘を打ち、話し掛けられてしまった暁には彼の思考回路は停止し、訳の解らない発言をしてしまうことも往々に有り得ることだ。

………まあ要するに、今バリーは彼にとっての最大級の危機に陥っているということであり。恐らくスパークしているであろう彼の脳内は、意味不明な文を無尽蔵に生み出しており、今にも突拍子もない言葉を発する事だろう―――と思っていたのだが。








「はっ、初めましてっ!お、お、俺………バリーです!よよしくっ」
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