ラグナレク
―――案外普通だったか。
噛み噛みながらも至って普通の初見の相手に対する挨拶を行ったバリーを見ながら、僕は少し残念そうに小さく舌打ちしてみせる。
挨拶をされた当のクレイはしばし眼の開閉を繰り返していたが、何かしらの発見に気づき手を打つと、その深紅の双眸を楽しそうに細めた。








「―――ああ、バリー君ね。貴方の事も、もちろん聴いているわよ」

「え、マジで!?」








―――クレイのその言葉を聴いた途端、バリーの顔は目に見えて明るくなった。大方、自分の武勇伝か何かが広まっているとでも思ったのだろうが―――にんまりと意地悪そうに吊り上げられた彼女の口から発せられた言葉は、浮かれた彼を天から地へと叩き落とすには十分過ぎるものだった。








「本当よ、とっても有名だわ。―――只一人だけ、筆記テストをギリギリの所で合格した人がいるらしい、ってね」

「―――は?」








バリーは頓狂な声を出し、驚きの色を露にする。
どうせそんな事だろうと予測していた僕は、あまりにも的中し過ぎている予想に、自分はエスパーなのだろうか、などと悠長な考えを巡らした。








「………それにしても驚いたわ。あんなに簡単なテストで苦しんでいたような人が、基礎能力テストもパスして、ここまで来れていたなんてね」

「な、なんだと………!」








バリーはいよいよ声を荒げ、勢いよくその場に立ち上がった。あまりにも勢いが凄まじかった為に椅子が倒れ、その音に反応した多くの受験者が一斉にこちらを見た。僕はその場から逃げ出したくなる衝動に駆られ、顔を臥せる。
………しかし、バリーとクレイはそんなことを気にするようなそぶりを微塵も見せることはない。
そろそろと面を上げた先には、互いに睨みを効かせ、その狭間に稲妻を散らしている二人の姿があった。
< 15 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop