ラグナレク
『………あー、諸君。既に昼食は摂り終えたかな?何の用かは皆お分かりだと思うが………今から「プラクティス・ルーム」にて最後のテストを始める。―――まだ食べている者もいるかも知れないが、これも試験の一環なのだ。実戦では私達が休憩し終えるのを、必ずや待ってくれるとは限らないからな』








驚いた。………勿論、急に始まったアナウンスではなく、彼女の素晴らしい情報力にだ。まさか、全く明確にされていなかった試験開始時刻まで知っていたなんて―――。上官の話を盗み聞きしていたとしか思えなかった。だとすると、彼女の近くで話をする時は、声量に気をつけなければなるまい。バリーも僕に似たような事を考えたらしく、目を見開き、クレイをまじまじと見つめていた。
クレイは得意げに鼻を鳴らすと、もうじき流れ出すであろうアナウンスに意識を向けた。








『―――それでは、いよいよテストを始めようかと思う。知っているとは思うが、「プラクティス・ルーム」があるのは、東階段から二階に上がったすぐの所だ。今から十分後にその場にいなかった者は、直ぐさま失格とするので注意するように。………では、健闘を祈る』








拡張器から聞こえていた男性の上官の声は聞こえなくなり、僅かに鳴っていた機会音も、ぶつりと途切れた。
すると、途端に教室にいた受験者達は扉を通り、慌ただしく外へと出ていった。バリーが、弁当に残っていた唐揚げを口に放り、飲み込むまでの間に教室には僕達三人しかいなくなっていた。
悪い悪い、と謝りながらバリーが弁当の空箱をゴミ袋へと押し込む。








「………待たせたな。さ、行こうぜ」

「―――よく自分が遅れておいて、そんな事が言えるわね。………尊敬するわ」








皮肉混じりにクレイがそう呟いた。しかしテストに緊張し、舞い上がっているバリーには、どうにもその皮肉は届かなかったらしい。多少強がったような口調をしながらも、バリーは今までになく緊張しているみたいで、彼の脚はがくがくと震えながらぎこちなく前へと進んでいた。
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