ラグナレク
「………俺が………天才………」








時間もそう無いというのに、バリーは妄想の世界へと迷い込んでしまったようだった。その証拠に、顔色がみるみる良くなる―――というより、にやけて締まりがない顔になってきていた。大方、自分が大活躍している所でも想像しているのだろう。

………正直、ここまで扱い易いとは僕も思ってはいなかった。普段のバリーは、もっとしっかりしているはずなのだけれど。

―――突如、バリーが顔を上げた。考え込むのを止め、僕と目を合わせた彼の顔には完全に光が戻っていた。彼は一度だけ五月蝿い程に豪快に笑うと、目を細めていた僕とクレイの顔を交互に見つめ、再び笑いながら話し出した。








「―――確かにな!そうだよ、そうだな!!まだ誰も操縦したことなんかないんだもんなぁ!!俺が目茶苦茶に操縦が上手いって事も有り得るんだ。そしたら………」








バリーはそう一息に言い切ると、想像に耽(ふけ)り、気持ちの悪い笑みを浮かべた。どのくらい気持ちが悪いかというと、見た途端に僕達が一歩後退するくらいだ。それはもう、酷いものだった。クレイがでかでかと溜息をつく。しかし、そんな事は気にも留めていないような彼は、笑顔を絶やさず、腹が立つ程に穏やかな口調で諭すように話を続けた。








「レイ、ありがとうな………おかげ様で、目が醒めたぜ。そして、クレイも………そんなキツイ事言いながら、実は慰めていてくれたんだろう?わかってるさ、全部わかってる………」








―――彼は、あんな嫌味たっぷりな皮肉を聴いた上で、この台詞を吐いているのだろうか。だとしたら、バリーはとんでもないマゾヒストだとしか僕には思えなかった。隣で、クレイが馬鹿にしたかのように彼を鼻で笑った。








「もう俺は大丈夫だ―――ああ、任せとけよ。何があっても俺が助けてみせるから、心配する事はないぜ。………おい、聴いてるか?クレイ」

「―――ええ、ええ。勿論よ。頼りにしているわ」








クレイは笑いを堪えながら、苦しそうにそう言った。正直、その隣で僕も笑っていたのだが、彼はそんな事に気づく気配は微塵も見せず、任せろと言わんばかりに胸を叩いていた。そんな様子が余計に可笑しく、僕達の笑いに拍車をかけるのだった。
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