ラグナレク
「さあ、いよいよ時間が近づいてきたみたいだ………僕はもう行く事にしよう。君達も、急いだほうがいい。時間ギリギリに部屋に入ったとしたら、上官の方々は良い顔をしないだろうからね。君達も色々あるとは思うけれど………戦場というものは、そんな理屈を聴いてはくれない」








彼はそう言うと、一呼吸入れてからにっこりと笑ってみせた。この青年は、少しでも緊張しているのだろうかと疑念を抱かせる程に、安らかな笑顔だった。








「貴方は、一体………?」








僕は、はっとしてみればいつの間にか青年にそう尋ねていた。自分でも、何故尋ねたのかはさっぱり解らない。が、尋ねなければならない気がしていた。それは、確かだった。
彼は僕の問い掛けに対して少しも動揺することなく、はっきりとした口調でこう答えた。








「―――僕は、ターレス。『ターレス・ペルソーン』だ。テストで失敗することのないようにね、レイ」

「え―――」








ターレスと名乗った青年は驚いている僕には目もくれずに、僕達に背を向け、頭上で手を振りながらシミュレーターのある部屋へと歩いていった。

―――びっくりした、という表情をしていたのだろう。事実、そうなのだから。バリーはその場に立ち尽くしている僕に、大丈夫か、と声をかけながら後ろから軽く小突くと、僕が抱いていたものと全く同じ疑問を僕に投げかけてきた。








「―――なあ、おい。あのターレスって奴………お前の名前、ずばり言い当てたよな」

「うん………」

「………なんでだろうな?」

「………僕もね、その事で戸惑っているんだよ」








僕は、首を捻らせてうんうんと唸っているバリーを一瞥し、一度だけ大きな溜息をついた。
―――どこかに、名簿でもあったのだろうか。それとも、僕達の話声が聞こえていたのだろうか―――。
思案を巡らせていると、突然隣にいたクレイが僕達二人の背中を強く叩いた。驚いた僕達は、思わず彼女の方へと振り向く。振り向いた先にあったものは、苛々としているような呆れているような………とにかく、不愉快な気持ちを一切隠さずにそのまま顔に出したような表情をしたクレイの顔だった。彼女は小さく咳ばらいして、話し出す。
< 27 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop