ラグナレク
僕は、しっかりとドアノブを握り直して、静かに息を吸い、吐いた。顔を上げ、扉のガラス越しに部屋の内側を覗くとそれに気がついたクレイが、速く入りなさい、と言わんばかりに目を細くした。わかったよ、と僕は頷く。




ドアノブを、ゆっくり………ゆっくりと回す。手首を捻ると同時に、きしきしと軋む音がする。
捻り切った途端、僕の体重に押され扉がほんの少しだけ開いた。部屋の中から、蛍光灯のほの白い明かりが洩れる。




―――行くぞ―――。

僕は胸の内で、静かに、でも強くそう呟いた。確かめるように、噛み締めるようにその言葉を反芻し、それを覚悟へと変える。
内側で反響しているその呟きが消えてしまわぬ内に、僕はドアノブを握る手へと体重をかけてゆく。扉が開けば開くほどに光は強くなり、僕の姿を照らす。完全に開かれた扉は僕が通ったのを確認すると、音も起てずに静かに閉まっていったのだった。
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