ラグナレク
―――何だ、結局いつもどおりか―――。

僕はどこかホッとしたような気持ちになりながら、沸々と込み上げてきた笑いに堪える事が出来ずに、遂にくっくっと笑い始めた。捩れそうになる腹筋を庇うようにしながら、僕は机に額を押し付ける。そんな僕の様子を見たバリーは、どこか不満そうに呟いてみせた。








「―――何だよ、何が可笑しいんだよ?」

「いや、別に―――ただ、普通のバリーだなって思ってさ」








「はあ?」とバリーが首を傾げる。どうやら彼は、オチへと繋げる過程で自分がどれだけ妙な行動をしていたのかさっぱり気がついていないらしかった。息を整える為、大きく深呼吸する。








「―――ふぅ。まぁ、バリーの言いたい事は大体伝わったよ。わざわざ伝えに来てくれてありがとう」

「おお。まあ、いいって事よ」








バリーは大きく踏ん反り返りながら、威張ってそう言った。僕はそんな様子を眺めながら、再びくすくすと笑う。
彼は一通り話を終えると、壁に掛けられた時計に目を遣った。時計の針は、外がそろそろ闇に包まれていく頃であると示していた。








「―――お、もうこんな時間か。じゃあ、俺はそろそろ行くとするかな」

「ん―――そっか」








僕とバリーは同時に席を立ち、扉へと歩み寄る。バリーは片手でドアノブを握り捻り、押す。所々錆びた扉がけだるそうにゆっくりと動いた。








「じゃ、俺行くわ。また後でな」

「ああ。………なあ、バリー」








僕が彼の名を口にすると、バリーは何だよ、という風に数回瞬きをした。僕は後ろ髪をかりかりと掻いて、口ごもりながら消え入るような声で呟いた。








「………頑張ろうな」

「―――おう!」








彼は歯を出して笑って見せ、僕が作った握り拳に自分のそれを打ち付けた。こつん、という渇いた音を残し、すぐさま消えてゆく。
バリーは背を向け、後ろ手を振りながら自分の部屋に向かって歩き始め、角を曲がるとその姿はふっと見えなくなった。

―――頑張ろうな。
自分に言い聞かせるようにもう一度だけ繰り返し、僕は部屋に戻り、扉に鎖を掛けた。そうして僕は再び深い眠りに堕ちた―――筈だったのだが。
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