零
まっしろな空間だった。
「…………?」
ただ、ただただまっしろ。
「…あ、」
否、まっしろの中に黒がひとつ。
黒い黒い扉がひとつ。
扉には白い貼り紙が少し右に傾いて貼り付けられていて、ボクは反射的に数歩前へ歩み寄る。
「う、うぇるか…む?」
まっしろい紙に真っ黒い字で書かれた奇妙な文章。
ボクはゆっくりと読み上げる。
【Welcoooooooooome!】
♪
不思議な場所へいらっしゃい
ようこそようこそ
いらっしゃい
さてさてさてサテ
黒い扉が見えますか
しっかりしっかり見えますね
今からあなたは扉を開けて
誰かに誰かに出会います
開けてみなけりゃわかりません
あらあらあらアラ
後戻りをご希望ならば
あなたの命ヲ頂戴します
扉を開ければ良いだけです
番人(一葉)
「?」
口に出して読んではみたが、まったくもって理解不能。
目の前の扉を開けて前へ進む/進むと誰かに出会う(だれに?)/扉を開けることを拒めば命がなくなる……!?
この支離滅裂な文章を書いたらしい番人の一葉なる人物は一体何を考えているのだろうか。
それ以前に、何故ボクはこんな所にいるのか。
「あ、あのー?」
何もないまっしろな空間に意味もなく呼びかける。
当然、ボクの声が反響して無惨に消えていくだけだった。やはり。
夢なら早く覚めて欲しい。
例えばこれが現実だというのなら早く家に帰して欲しい。
そうだ。ボクはいつものように学校が終わっていつもの道を通っていつものように帰宅している途中だったはずなのに。
いつもと違う景色が目の前に広がっているのはどういうことなのだろうか。
助けてくれ。
ボクは扉に手を伸ばすことなく、その場にうずくまった。