「どうしたんだい?はやく進んでくれないと次が控えてるんだよ?」

「っ!?」

確かに誰もいなかったはずの空間。だったはずのその空間から間の抜けた男性の声が聞こえ、た。
ボクがうずくまって空間から少し目を離した瞬間の出来事。

やはり反射的に顔を上げると、ボサボサ頭のひょろりと背の高い男性が少し前屈みになってボクを見下ろしていた。
何とも均等のとれていない黒縁眼鏡をかけていて、イマイチ表情が読み取れない男性だった。

「進まないと、キミ、命がなくなっちゃうけど良いのかな?」
「え、」
「貼り紙、読んでない?」

男性は首を傾げて黒い扉を指差した。

「よ、読みました」

ボクは座り込んだ状態のままずずず、と後退り。あくまでも自己防衛のため。

「ヤなら早く進むと良い。別に何も恐がることはないサ。キミに似合った番人がキミを迎えてくれるから」


また、わけのわからないことを。

「番人?」
「…ボクのことかな?」
「え?」
「え?」

ボクは首を傾げ、男性はずれ落ちた眼鏡を戻しながら同じように首を傾げて見せた。
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