零
扉が閉まれば白から黒の世界へと反転。
右も、左もわからない。
ああ、何て極端な場所なんだろう。ボクは大きく一つ、深呼吸。
不思議なのは、自身があまりにも落ち着いているということ。
白から黒へと反転した途端、ボクの心拍数は正常な速さへと逆戻り。はて?
「前へ、進むべきなんだよ、ね?」
恐る恐る右足を一歩前へ進めた刹那、まるでボクの行き先を指し示しているかのように一本の白い光が現れた。前へ前へと続いている。
本当に、不思議な場所。
ボクは導かれるままに、一本の白い光を辿って前へと歩みを進めた。
コツコツコツコツ。
ボクの足音だけが規則正しいリズムを刻んでコツコツコツコツ。
何も見えない。
誰も見えない。
右は黒。
左も黒。
ボクはどこ?
怖いと思わないの は、 ナゼ ?
「…っ」
「ようこそです。やさしい少年」
モヤモヤした黒い何かがボクの心に浸食し始めた時、ボクを導いていた足下の白い光がス、と消えた。
「あ、……え?」
闇に光が、黒に紅が混じり、辺り一面市松模様がボクの視界を埋め尽くす。
コロコロと変わる状況についていけずに呆然と立ち尽くすボクの目の前には縦に長く伸びた紅の扉と膝裏辺りまで真っ直ぐに伸びた黒髪の美少女。
「一葉に導かれて此処へ来たあなたを、私は歓迎します」
そう言って終始俯き加減の少女がボクに微笑を見せることは決してなく、何故かボクの方が(引きつった)愛想笑い。
白いワイシャツ/紅と黒が入り混じったユルユルのネクタイ/黒いユルユルのズボン/黒いパンプス/、の美少女。
そして一体何処から現れたのか。少女の周りを黒い蝶がユラユラと飛んでいた。