零
「ようこそです。やさしい少年」
先程と同じ台詞。
「こ、こんにちは」
何をどうすれば良いのかわからず、ただとりあえずの挨拶。
「…一葉から何も聞いていないです?」
「ええ、何も」
ええ、まったく。
何でも一葉さんという方は詳しい説明が苦手なそうで。とは言わず。
「それはそれは」
困りましたと俯き加減で小さく溜め息。
それでもやっぱりボクと少女の視線は交わらない。
ふわりふわりひらひらひらひら。
漆黒の蝶が優雅にゆらゆら。
ボクはこれから一体どうなるのだろうか。
考えたら、急に怖くなってきた。
だってそうだ。
突然こんな訳の分からない所にやって来て、いつになったら帰れるかもわからないではないか。
それどころか、命の保証だって危ういところだというのに。
きっとみんな心配しているに違いない。
(み ん な …?)
そう、みんな。わかるだろう?
例えば…たとえばほら、
(タトエ バ…)
「っ…」
「?どうかしましたです?」