愛されて
「ただいま…」
家に帰らないわけにはいかなかった。

リビングのドアを開けると…
大沢先生が来ていた。
私は慌ててドアを閉めた。


リビングから話し声が聞こえた。
「すみません。校長が不在だったので…通知表は明日、取りに来なさいって遥香さんに言ったのですが…校長が戻ってきて通知表の再交付ができましたので、お届けに…」

「どうも…わざわざすみませんね。あの子も…川に落とすなんて、けっこうドジで…」

ママが笑いながら言った。
私が言ったときは…
信じてくれなかったのに。

ひどいよ…
ひどすぎるよ…

でも。ママは…
私がわざと川に落としたと思っているだろう。


「いや、遥香さんは今学期、よく頑張りました。教室では友だちから見られるので…帰り道、1人になったところで、通知表を見ていたところ、同級生の子が脅かしてしまったらしくて…驚いて、川に落ちたそうですので…」

「そうですか…」

「じゃあ…私はこれで…」

大沢先生は帰って行った。

大沢先生が玄関から出て行くのを、自分の部屋から見た私は…

ママに見つからないように…玄関から外に出て。

「ただいま…」
と今、帰ってきたかのようにリビングに入った。

「おかえりなさい」
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