ろく

「恨みってのはよう、確かに自分を純粋化するよな?

嫌なことをされた相手に対して、こんちきしょう! 負けねえぞ! ってな。

だけどよう、恨みは風化すんだけどよ、恨んだ時間は戻って来ねえんだ。

きっとな、航太も家に帰れば、許したい気持ちがあるって思うんだ。

どうしよう、どうしようってな。

だけどな、優子の顔見たら思い出す……。

そんな繰り返しだと思うんだ。

確かにな、許されねえ恨みってのもある。

おいらの親も車ってやつにぺっちゃんこされちまった。

だからおいらは車ってもんが許せねえ。

だけどよ、許せる恨みっつうもんもあると思うんだ。

特に自分が相手を大事に思ってんなら尚更だ。

だったら、早く許す努力をしたほうがいい。

あれだろ、優子?

許しを受け付けられないあまり、ちょっとは航太に腹を立てただろ?

「人」の言葉で『逆ギレ』っつうのか?

あれがいけねえ。

恨みに恨みで返しちまったら、二度とその関係は戻んないぜ。

わかるよな?

でな、一日恨んだとすんだろ?

そしたら、元に戻るためには二日かかる。

一年だったら二年だ。

航太はそれを今からしなくちゃなんねえ。

恨んだ数の倍、優子を愛さなきゃなんねえ。

それは普通に言うとこの愛情じゃねえぞ?

わかるよな?

関係を修復し、傷を治す。

失った時間は取り戻せねえから、新しい時間で埋めて行かなきゃなんねえ。

辛えぞ。

何気ない優子の一挙一動に、すまない、申し訳ないって気持ちが付いて回るんだ。

互いが共有できなかった思い出の分、心が痛むんだ」


洗い終えたろくのヒゲが風に吹かれて揺れている。

私の視界もなぜだかゆらゆら揺れていた。
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