ろく
「まあ、そこまで深刻に考えなさんな。あれほど能力の突出した猫は三丁目の奴だけだし、他の猫はただ恐ろしくて従ってるだけだ。アイツも頭がいいから、準備が出来るまでは理由もなく「人」を襲ったりはしねえよ。それにな……」
−それに?
「優子はおいらが守ってやるからよう……」
ろくはまたそっぽを向いてそう言った。
照れてるのか猫の習性なのか、耳を抱えるようにして頭を洗っている。
私は嬉しくなってろくの前に回り、顔を覗き込む。
ろくはそっぽを向く。
そっぽを向いた方向へ回る。
ろくはまた違う方向を向く。
ただ嬉しくて、ずっとそれを繰り返していた。