男装ホスト.Lie ~私の居場所~
コンビニに入ってバイト情報誌を数冊手に取った。
いつまでも雅さんに甘えている訳にはいかない。
支払いを済ませ、近くにあった電話ボックスに入った。
財布から一枚の名刺を取り出す。
“代表 内山 慎”
あの夜、慎さんが私に声を掛けてくれた日にくれたものだ。
受話器を手に取り、番号を押す。
ふと外を歩く女子高生と目があった。
今時、公衆電話なんて使う奴がいることがおかしいのかクスクス笑っているようだった。
…私も数ヶ月前までは彼女たちと変わらない集団の中で生きていた。
流行りの化粧、洋服、髪型… あらゆるメディアからそれらを取り入れ、女を全面に押し出し彼氏が居ない事を悪とする彼女たちに、私がついていける筈もなかった。
上辺だけの付き合い。
だから家を捨てたあの日、携帯を置いていくのに数ミリの未練もなかった。
『…』
呼び出し音が聞こえる。
自分の心臓の音も次第にクリアに、はっきり聞こえてきたように思えた。
「…はい。内山です」
『…』
慎さんが、電話に出た。
けど声が出てこない。
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