男装ホスト.Lie ~私の居場所~
優しく響いた、名前を呼ぶ光輝さんの声。
莉依、
…莉依。
記憶がフラッシュバックする。
「莉依。どした、いじめられたん?」
「なんや、虫か。大丈夫、お兄ちゃん強いから。な、莉依?」
「莉依!あー…転んだんか」
「お兄ちゃんがおぶったる。莉依、おいで」
『っ……!!』
写真盾に水滴が落ちる。
しっかり見たいのに、涙でぼやけてよく見られへん。
ずっと、自分は不幸せだと思ってた。
何で忘れてたんやろ…
自分の描いていた幸せな家族。
私もかつてはそれを持っていたんだ。
忘れていただけ、
あまりにもそれは現実とかけ離れてしまっていたから。
それを思い出したら、今が惨めで泣きたくなってしまうから。
だから、幼い私は幸せな記憶に蓋を閉めて心の奥に沈めた。
何も最初から持ってはいなかったんだと。
『…お兄、ちゃん…』
私を、想ってくれている人が、こんな近くにいるなんて。
…いつも夢に描いていた“理想の家族”。
まさにそれを写し出した写真を胸に抱え、溢れた思い出に、一人静かに泣いた。
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