男装ホスト.Lie ~私の居場所~





捺「…分かった。比呂には俺から言っておく。いつ、ここを出る?」



『ありがとうございます。…今日、夕方までには』



捺「分かった。余裕持って明日まで部屋は取っておいてもらうな」



『すみません、最後まで』



捺「…挨拶はしないで行く気か」



『みんなに、ですよね。…いえ、店にはもう行けないですから。また、決意鈍ってまうと思うし』



捺「そ…っか」



『捺生さんの謹慎…私が居なくなったら解けますよね?』



捺「あ?…ああ、謹慎な。それ自己判断や」



『…は?』



捺「別に慎に言われた訳ちゃうから」



『…心配して損した』



捺「だから俺の心配は要らんって言うたやんけ」



『…そうでしたね』










暗い空気にはしたくなくて、淡々と話す。



まあきっと、いつも通りの口調に聞こえるやろう。











捺「…他に言い残す事は?」



『えっと…皆さんに、ありがとうとだけ』



捺「…おん、分かった」



『あと…捺生さん』



捺「うん?」



『あー…ううん、やっぱり良いです』



捺「なんやねん」



『…捺生さんが婚約者で良かったです』



捺「…何で」



『何で…って。…好きでもない人と、顔も見た事もない人と結婚なんて、本当に道具なんだって自覚して家を出たんです』



捺「ああ」



『捺生さんが自由で居てくれるなら、私も結婚しなくて済むし』



捺「…そうやな」



『ずっと、自由で居てくださいね』



捺「…ああ」














…はぁ。



人の気持ちも考えんと勝手な事ばかり言いよる。



さっきから出るのはため息ばっかりや。







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