男装ホスト.Lie ~私の居場所~
悠「…ほ、菜穂?」
『…あ。すみません、ぼーっとして…』
悠「体調でも悪いのか?」
『いえ…そう言う訳では。…すみません』
すっかり悠さんが居る事を忘れていた。
凌さんはただ笑みを浮かべて立っている。
悠「とりあえず食事にしよう。まだだと聞いたから」
『あ…ごめんなさい、食欲が無くて』
悠「夏バテか?そう言う時こそちゃんと食べなきゃ駄目だ」
『え、と…』
悠「軽いものを用意させるから。また声を掛けるよ」
『…すみません』
悠「いや。じゃあまた後で」
『はい…』
義兄が出ていき、思わずため息がこぼれた。
悪い人ではない、けれど。
凌「愛されていますね、菜穂様は」
『…そう見えますか?』
凌「ええ」
『…そう』
あの人といると息がつまる。
“妹”を溺愛していたらしいと言う話は聞く。
亡くした本物の代わりに、偽物を同じように愛そうとしてくれているのかもしれない。
それが、重たい。
『…はぁ』
凌「…幸せが逃げてしまいますよ?」
『…逃げる幸せなんて』
凌「え?」
『いえ…』
戻る事を選んだのは、私だ。
なのに弱音ばかり…情けない。
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