男装ホスト.Lie ~私の居場所~
凌「…」
『…』
凌「…捺生様に何か言われましたか」
『…はい』
凌「何ですって?」
『…』
凌「菜穂様?」
『…』
凌「…」
カチッとドライヤーの音が止まり我に返る。
と、ほぼ同時に後ろから重みを感じた。
『…凌さん?』
凌「…」
『…七瀬』
凌「…はい」
『重い、ですよ』
凌「…お嬢様の体が冷たいから、暖めて差し上げているのです」
『…あったかい』
凌「…今日は普段以上にがら空きですね。心ここに在らずで…一体捺生様に何を言われたんですか」
いつもなら、こんなに密着されて抵抗しない訳がなかった。
けど、今は今日あった事を反芻する事に頭を使い切っていた。
『…好き、って』
凌「え…?」
『好きだって…冗談じゃなくて、同情じゃなくて…好きやって』
凌「…捺生さんが」
『どう、しよう…』
凌「…」
そこまで口に出してハッとした。
こんな事言ってもどうせ義父側の人間である凌さんは良かったですね、とか、喜ばしいですね、とか言うだけなのに。
…そう思っていたのに、 そんな言葉はいくら待っても返ってこなくて。
代わりに、私の首に回された凌さんの腕の力が強まった気がした。
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