最後の恋はアナタの隣で
「すまない、涼。予約の時間があるからちょっとだけ急いでもらっても良いか?」

……やっぱりいつもとは違う雰囲気の春樹さんに急かされ、本気で泣きそうになった。


時間稼ぎすら許されない状況に、嫌な予感の比率が増していく。


でも、だからといって私には、この場から逃げ出す勇気も根性も備わっていない。


身支度を整えてブルガリの香水を手首に吹きかけると、鞄も財布も持たなくて良いと言う春樹さんに従って、私は手ぶらで家を出た。


そして、エレベーターで一階まで降りて駐車場に行き、春樹さんのセダンの助手席に乗り込むと、春樹さんは行き先も告げずに車を発進させる。


その横顔はやっぱり硬い雰囲気を醸し出してて、とても話しかける気にはなれなかった。
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