バラバラ死体とシャルウィーダンス
切り傷
「これは………」
フジハラさんは画面に見入ったまま、何かを考えている様子だった。
「美幸」
「あい」
「今の録画してたか」
「しとるべー」
「巻き戻せ、選挙カーの声の所」
「うーぃ」
私がボーッと見ている中、美幸ちゃんがパソコンを操作し、映像を巻き戻した。
「ここ?」
「そう。で、この選挙カーの音だけでかくして。出来る?」
「出来る!」
どうやら今は、私は何もしなくても良いらしい。
コーヒーを飲みながら、私は二人の様子を眺めていた。
選挙カーの声を何度も繰り返し聞くフジハラさんの姿は、珍しい位に格好良かった。
少し奥さんが羨ましいな。
しばらく同じ所を聞き返し、フジハラさんは
「わかった」
とだけ言った。
「何がですか」
「地域だよ。この候補者は○○県○区の選挙に出てるんだ」
そう精悍に言い放つフジハラさん。
なんだ、普通に頭は切れるじゃん。
「美幸、明日この地域にいる前科ありの人間や精神的に異常がある人間など、とにかくあらゆる可能性を辿って調べてリストにして」
「あい」
的確にも、私が言おうとしていた言葉を言われた。
フジハラさんは私に向き直り
「川上、今日は帰っていいよ、お疲れさん」
「は?」
信じられなくて目を剥く私。フジハラさんは照れ臭そうに
「今日、結婚記念日だから早く帰って来いって……」
知らんわ!
「あの、私今日は徹夜する気だったんですが……」
「美幸も早く帰るんだから、何にもできないだろ?」
「う………っ」
それを、言われたら……。
「か、帰ります………」
渋々席を立った私に、フジハラさんと美幸ちゃんが
「「さいなら〜」」
と息ピッタリに手を振った。
なんか、気楽過ぎはしないか?
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