花が咲く頃にいた君と
「お前に何がわかんだよ。気持ちワリィこと言うなよ」


柊は強気な言葉を並べるけれど、負け犬の遠吠えにしか聞こえない。



「わかるよ」

「お前、マジ黙れよ!!」


まるで手をさしのべているかの様な、東向日の優しい言葉。

それにとうとう耐えきれず、柊は声を荒げた。



そして、伊吹と横峯を連れて、あたし達に背を向け反対方向へ歩いて行ってしまった。



まだ“人殺し”と言われた声が、脳内をエコーして、何も話さずにいた。


「帰ろう」


そんなあたしを知ってか知らずか、東向日はいつもと変わらない優しい声であたしに手を差し出した。



甘えたい。



差し出された手、ギュッと握って、胸に飛び込んだ。



「えっ!?冬城さん!」

「今は甘えたい気分なんだよ」


東向日の胸に擦り寄って、偉そうに言ってみた。


繋がれた手はぶらんと下がったまま、空いた手があたしの撫でる。



「ごめん。さっき冬城さんの名前呼んじゃった」

「ふーん。いつだい?」

「冬城さんが暴走したとき」

「いいよ、東向日は買い主だからね」

「かい、ぬし?」


あたしを撫でる手が止まった。



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