花が咲く頃にいた君と
「ただいま」


結局、東向日とはあの場で別れ、東向日の所へは一人で戻った。


小さく小さく呟いた。



“ただいま”は大理石に吸い込まれた。



「お帰りなさいま…!どうなさったんですか、そのケガ!?その髪!?」


たまたま通りかかった初川さんが、声を荒げてこちらに駆け寄ってきた。


「ちょっと転んで…。髪は鬱陶しかったんで、自分で…」


ケンカしたなんて、他人に切られたなんて、飽きられそうでとても言えなかった。


「あぁ、どうしましょう。若旦那様!」

「は、初川さん!若旦那様は知ってます」


東向日を呼びに駆け出そうとする、初川さんを慌てて止めた。



「初川さん、大丈夫ですから」

瞳を泳がせて、俯いた。
最近こんなことばかりだ。



「結女さま、どうかご自身をお大事になさって下さい。

若旦那様は、貴女様がこちらに来られた日、貴女様がこの大きなお屋敷で行方を眩まされ、

私達使用人を総動員して、貴女様を探されました。あんなに必死な若旦那様は初めてみました」


初川さんの言葉に、目を見開いて顔を上げた。


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