花が咲く頃にいた君と
体当たりされて弾かれる瞬間、両腕があたしを包んで力一杯、抱きしめられた。


「いだい…」


額と鼻をどうやらぶつけたらしい。



痛い。


「どんだけ心配させんだ!!」



東向日に抱き締められたまま怒鳴られて、直接頭に振動が伝わった。



「ご、ごめん…」


あまりの怒声に、反省というより、驚きで謝罪の言葉を口にした。



「こんなに俺を走らせて楽しいか!」



あの、すいません。


一人称が“俺”になってるのは気のせいですよね?



「た、楽しいわけ…」

「絶対わざとだろ!」

「わざと?」

「そうだよ!絶対俺を走らせるために、結女はどっかに隠れてんだろ!?」


あまりの剣幕に恐る恐るしか、尋ねることも、否定することも出来ない。



「毎回毎回、俺がどんだけ結女を心配して、捜し回ってるか知ってる?」

「誘拐されてたらどうしよう!事故ってたら、変な事件に巻き込まれてたら!変な親父に付いてってたら!」

「もうありとあらゆる心配が爆発しそうで、俺の寿命は2、3年は縮んでんだよ!」



悪気がある訳じゃない。


迷惑をかけまいと起こした行動も、不本意ながら連れ去られたりとかも、全部、東向日を心配させていたなんて。


「ごめん」



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