花が咲く頃にいた君と
「なにそれ、」


抱き締められた腕が緩んで、


「意味、不明…」


見上げた東向日の顔、罪悪感に歪んで

あたしから目を逸らした。



緩む東向日の腕、そこから後退りして離れた。


それを東向日は、拒まない。



今まで感じていた、くすぐったいような温かな気持ち。


一瞬で凍りついた。



「君が僕を選べば、大金が手に入る」


俯いたままの東向日


「お金?」



反芻した声が、震える。


「今まで黙ってたけど、君は“東向日財閥”の唯一の跡取りだ」



一呼吸置いて、まっすぐ見据えられた。



意味の解らない現実だけが走り出す。



「ひがしむこう、ざいばつ?」


意味がわからない。
意味わからない。


なのにその中で、1つだけわかることがある。



「だから東向日はあたしが必要なの?」




泣き出しそうな東向日、

泣いたのはあたし、



「君が買われたんじゃない。買われたのは僕の方だ」



自嘲気味に吐き出された言葉。


意味がわからなくても、胸は軋む。



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