花が咲く頃にいた君と
あたし面倒な子じゃ、なかったでしょ?


いつだって、なんだって自分でやってきたよ?


十夜の世話だって、下宮比さんの世話だって、あたし充分やれてたでしょ?




それでも足りないって言うなら、あたしもっと自分を殺すから…



だから、だから…



独りにしないで







「ふゆちゃん」



名前を呼ばれて身体がビクついた。


さっきまでの、雨に打たれる感覚が消えた。



誰かがあたしの上に、傘をさしてくれたらしい。


「衣夜さん…」



見上げた先に居たのは、東向日に似た優しい笑みを衣夜さんだった。



「こんなとこでどうしたの?」



びしょ濡れの身体、衣夜さんはあたしを上から下まで確認すると、心配そうに眉を下げた。



傘もささずにびしょ濡れで、こんな所に座り込んだまま虚ろな瞳をして、端から見たらかなり危ない子だ。


尋常じゃない。



普通なら関わりたく無いって思うだろう。



なのに、衣夜さんは優しく微笑んで、あたしの上に傘を差し出してくれた。




騒ぎ立てず、冷静にこの状況を判断している。


とても、大人だ。



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