花が咲く頃にいた君と
夏は麦わら帽子を被って、良く散歩をしたな。


あんまり無理できない体だから、施設の周りを一周するだけだったな。



荷物をいっつも持ちたがって、その度、俺が何か理由を付けて持ってやったな。




少し汗ばんだ小さな手
とても大切で

その感触は、会えなくなったこの10年


忘れたことなんて無いよ。



ツインテールより三つ編みが好きで

冬でも麦わら帽子を被りたがって

花の冠を作るのが上手くて

身体は小さいくせに、声は人一倍でかくて

笑うと花が咲いたみたいにパァッとなって


そんな、可愛い可愛い俺の妹


“小夜”




俺が命に代えても、守りたいたった一人の“家族”


「小夜の余命は1年」



脳内に浮かぶ、幾つもの幼い小夜。


そんな笑顔の小夜が粉々に散った。



目の前の努の言葉、


“あぁもう時間に有余はないのか”


と思い知らされる。




「小夜は俺が助ける。お前みたいに、見捨てたりしない」



この10年をどんな風に俺が歩んで来たのか、努は知らない。


そしてまた俺も、努と小夜の10年を知らない。



どちらが悪く、どちらがいい。

そんなのは無い。
お互い大変な時期を歩んだはずなのに


努には俺の10年があまりに楽観視されている。


けれどそれを攻め立てられない。


俺は自分だけが辛かったと、主張したいわけではないからだ。



けどもしも、お互いの苦労を天秤にかけるなら、俺の10年は“努と小夜”に比べたら実に楽なものだったのかな?


なんて思い知らされたらと恐怖に駆られて、結局何も言えない。



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