花が咲く頃にいた君と
17年、十夜と居たが、いつもおちゃらけて、こんなに真剣な表情は見たことがない。

初めて見る表情に、こっちが緊張した。


「結女」

思えば十夜は若い父親だ。

十夜が18の時にあたしが産まれ、すぐに死んでしまった母親の変わりに、学校を辞めてここまであたしを男手1つで育ててくれた。

実際父親と言うよりは、兄貴って感じで、一緒に出掛けてもよく間違われる。


感情が欠落してるのも、このバカな父親を見て育ったせい。


「結女」

「聞こえてる」


どこか切なく聞こえるのは、この変な空間にいるせいだろうか。


「俺はさ、全然父親らしくなくて、いっつもお前をを困らせてたな」


突然語り出したら十夜にあたしは固まる。

いつもなら、白い目で見るけど、今の十夜の雰囲気がそうはさせてくれない。


「結女は賢くて、将来絶対いい女になる」

「じゅう?」


突然語り出したら十夜の頭を心配して、真剣な顔を覗きこんだ。

そこにあたしの不安が隠されていることに、十夜なら気付いていたかもしれない。


「親バカかもしれないが、お前は母親に似て頭が良いからな。だから…」

「待った!!!」

いつの間にか、スカートをギュッと握り締めていたあたしは、無意識に十夜の話を止めた。


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