花が咲く頃にいた君と
ずかずかと部屋に上がり込み

次の瞬間、胸ぐらを掴まれた。


身体が浮き上がって、襟足に食い込むYシャツが痛い。



「俺、言ったよな?」



胸ぐらを掴む冬城十夜の手が震えていた。


低く、冷たく、尖った言葉。


冷静な言葉の裏に、見え隠れする激憤。


「結女を泣かせんなって…
傷付けんなって…
誰にも奪われるなって…

俺、初めに言ったよな?」



俺へ重くのし掛かる言葉


それから、現実から、目を逸らす様にそっぽを向いた。


見えたのは、力なく垂れる腕。



何も掴もうとしない。
何も望もうとしない。


そんな手が目に入って、自嘲気味な笑みが漏れた。



所詮、俺には何も守れない。
中途半端に手を付けて、何も成し遂げられない。



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