花が咲く頃にいた君と
次の瞬間、全力で殴られていた。


頬は熱を帯び、口内は鉄の味がする。


殴り飛ばされた身体は布団で弾み、起き上がることが出来ない。



「ふざけろ!!!!何なんだよ、お前!!こっちは大事な娘、預けてんだよ!!!最後まで責任取れや!!!!!」



上から降ってくる罵声。


何だか凄く心地好かった。

誰かに責められると、自分をもっと自虐することができる。


この時の俺は、ただ悲劇のヒロインを装いたかっただけだろう。



「お前、今、結女が“どこ”に居るか知ってるか?」


再び胸ぐらを掴まれ、引き寄せられた。




「知りません。貴方の所にでも帰ったんでしょ」


俺は目を逸らしたまま、答えた。



しかし、冬城十夜はもう俺を殴ることはしなかった。



「結女は“東向日衣夜”に奪われた」


俺の身体が無意識に反応する。



あの人を蔑むような冷めた瞳。



忘れかけてた憎悪が蘇りそうだ。



「あいつは金のためなら、何でもするぞ。東向日の総帥が死んだ後、その財産を受け継いで、次は“結女”まで殺すんだろうよ」


俺は目を見開いて、振り返る。


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