花が咲く頃にいた君と
何だかこの話の流れは不味いと思った。


いつになく真剣な十夜の声、俯いたまま顔があげられなくて、握り締めて拳を見つめ続けた。


「結女、今日が何の日か、わかるか?」

「わかんない」


ゆるゆると首を振るあたしは、幼い頃に戻ったようだ。


「結女、」

「結女、」

「俺の可愛い愛娘」


ギュッ握り締めた手に十夜の大きくて華奢な手が重なった。


「18歳おめでとう、結女」

勢いよく顔を上げると、いつもの悪戯っぽい笑顔ではなく、初めて見る父親らしい笑顔がそこにあった。


「結女に言わないと行けないことがあるんだ」

また真剣な表情の十夜に息を飲む。


逃げ出したい空気に、十夜に手を掴まれていたことを思い出す。


「俺、本当は…」

ゴクッと生唾を飲み込み次の言葉を待った。


「32なんだよ」

十夜の鋭い視線と見つめあうこと、数秒。

「はっ?」


口をついて出た声は、驚きとかそんな類いのものではない。


なんと言うか、ここまで真剣に見つめあったのに、カミングアウトされたのはそんな下らないこと。


「なにそれ…」


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