花が咲く頃にいた君と
side 柊
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冬城結女が、衣夜さんの手に渡った。
俺は冬城結女が嫌いだ。
その昔、小夜を“死の危険”に晒したからだ。
しかし冬城結女にはあの時の記憶は愚か、小夜のことさえ覚えていない。
俺はあの時のことを今でも忘れていない。
思い出すだけで、憎悪の塊が俺を支配して発狂しそうになるのに。
冬城結女はあの時のことを無かったように、のうのうと生きてやがる。
俺から言わせればあれは“殺人未遂”のなにものでもないのに。
それほど大嫌いなあの女の監視をするはめになるとは…
堪ったもんじゃないと思っていた。
しかし、全ては小夜のため。
あの愛しい笑顔を守るためなら、俺は悪魔にだって魂を売り渡すだろう。
「もしもし」
『冬城結女は手に入れた。君たちの役目はもう終りだ』
「報酬の方は…」
『そんなのあるわけないだろう』
「え?」
思わず眉間にシワが寄った。
『何の役にもたってないのに、それに結女は自分から俺を選んだんだ。君たちは本当に何の役にもたたなかったよ』
ツーツーツー
プツリと切られた電話から流れるのは、虚しい音だけだった。