花が咲く頃にいた君と
「おい、バカ女!」


俺は躊躇うこと無く、叫んだ。


始めに悲鳴を上げたのは、メイドだった。

そして半拍遅れて振り返った冬城は、目を大きく見開いた。


「幻覚?」


どうやったら、そんな結果に辿り着くんだよ。

やっぱりこいつは、バカだ。


冬城は今にも泣き出しそうな顔をした。


けどその目は…


ゾッとするほどに、真っ黒だった。


「俺等と一緒に来い!」


差し出した手


冬城なら迷わず取ると思った。

けれど冬城は見開いた目を戻すと、すっと俯いた。


人間はどこまでも落ちていける。



ここがこいつにとっての地獄なら、置き去りにしたいと思った。


もっと苦しめばいいと思った。


だって小夜はもっと苦しんだ筈だ。


だから苦しめばいい。

なのに脳裏にちらつくのは、小夜の笑顔で


やっぱりこいつを奪還するしか、小夜を助け出す方法は無いんだと

思い知らされる。


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