花が咲く頃にいた君と

花冠のお爺さん

フラフラになりながら、東向日を引っ張った。


「行こう。速く例の人に会いに行こう」

「あっ、あぁ」


東向日はあたしを支えようとしてくれたけど、何度も振り払った。



もう、朋哉さんに会えば
用済みなあたしに構わないでほしい。


それに小夜の死を恐れ、逃げ出したあたしを構う必要なんてない。



ちっぽけなプライドと沢山の罪悪感で、その温かい手を取ることができなかった。


朋哉さんがいる病室は、小夜がいる病棟のもう一つ向こうの病棟だった。


渡り廊下を渡り、個室が建ち並ぶ中の

最も特別とされる5階に朋哉さんの病室はあった。


廊下の窓からは、良く小夜と遊んだ芝生の庭が覗けた。


「失礼します」


三回のノックの後、東向日は躊躇いもなくその重い扉を開いた。


東向日に続いて部屋に入ると、思っていたよりもそこは狭かった。



他の病室よりも小さい窓、それに添って置かれたベッド。


特別室と言うだけあって、ベッドや壁、テーブルなどは他の病室とは、比べ物にならないくらい、高級感溢れていた。


けれど、とても寂しい病室だった。


ようやく、ここが病院なんだと、病室には似つかわしくないここで自覚した。



< 207 / 270 >

この作品をシェア

pagetop