花が咲く頃にいた君と
「今日は連れてきました。貴方の孫の“結女さん”を」


それまで部屋に入っても、反応の無かったベッドに横たわる老人は、ゆっくりとこちらへ寝返りをうった。



「“結女”?」


よぼよぼのお爺さんは、あたしを瞳に写すと

その虚ろな目から、はらりと涙を流した。



「………優香」


お爺さんはその骨張った手をあたしに伸ばした。

あたしも導かれる様に、お爺さんの横たわるベッド横に膝をついた。


「そっくりだ。優香にそっくりだ」


そう言って、お爺さんはあたしの手をとって涙を流し続けた。


ゴツゴツしたお爺さんの手は、もう皮と骨しかなくて

あたしはまた“死”と向き合った様な気がした。


チラリと辺りに視線を走らせると、お爺さんの眠るベッド伝いの壁に

萎れた花冠がポツンとかけられていた。


ポツンと壁にかけられた花冠は、きっと誰も気付かれない。

その存在感はあまりにちっぽけで、寂しいものだった。



「花冠の、おじちゃん?」


お爺さんの手をギュッと握りながら、ソッと問いかけてみる。


お爺さんはあたしをもう一度、その瞳に映すと驚いたように目を見開いた。


「あの時の…?」



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