花が咲く頃にいた君と

正体

三日間眠り続けていたらしいあたしは


意識がはっきりした瞬間、夢ではなく現実、その場に居た十夜の


胸ぐらを掴んで、自分の方へ引き寄せた。



「どういうことか説明しろ…」


自分でもビックリするくらいの低い威圧的、声



「まぁ、落ち着け」


しかし十夜は全く気にしてない。


それどころか軽くあしらい、あたしをベッドへ押し戻した。



「どこから話そうか…」


顎に指をかけて、十夜はさも考えているフリをする。



「そうだな。初めから、結女が産まれる前から話そ」



始めから決めてたんだと思う。



多分、ずっとあたしが聞きたくて堪らなかった話。


そしてずっと十夜が、話したくなかった話。




「結女の母親はな、」



そんな話し出しから始まった

十夜と“お母さん”の思い出話は、十夜にとってまだ“思い出”になんか出来ない話



だって十夜の瞳は、憂いを帯びて


今にも涙が溢れてきそうだったから



< 227 / 270 >

この作品をシェア

pagetop