花が咲く頃にいた君と
結女の母親は、東向日 優香


東向日財閥の令嬢だった。


昔、俺は手の付けれないほど荒れててな

その日もケンカした帰りだった。



土砂降りの雨の中、その人は一本の傘を胸に抱いて、俺の目の前に現れた。



“野良猫さん、傘はいかが?”


馬鹿だよな。
自分で傘持ってんのに、ささずにびしょ濡れだぜ


なんか変な光景で、思わずその傘受け取っちまったよ。



…――――十夜はその時のことを鮮明に思い出しているのだろう。

とても楽しそうに語り、胸元から出した煙草をくわえた。



けど受け取ったのは、傘なんかじゃねぇ


あの人本人が、ぶっ倒れてきたんだよ!

そりゃ、もちろん
抱き止めるしかねぇだろ。



触れたあの人の身体は、火傷するくらい熱くて


意識のないあの人の吐き出す吐息。



めっちゃ苦しそうで、放置することも出来ねぇからおぶって俺ん家まで連れて帰ったんだよ。



看病の甲斐あって、あの人の熱は四日後にひいて、元気になったんだよ。


これで意味不明なその人と、“はい、さよなら”出来ると思ったんだけどな…。




天然ってスゲーな。


あの人は国宝級の天然だったよ。


…――――クツクツと喉を鳴らし、十夜は思い出し笑いをした。



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