花が咲く頃にいた君と
“母親になるって不思議、まだこの子の形すらちゃんと出来てないのに、もうこの子を守ることに必死なの”


“何をしたって、この子を生んであげたい。不思議ね。怖くないわ。むしろ楽しみで、力が溢れてくる”


“守ってくれるでしょ?私もこの子も、十夜くんなら”



笑顔で言われたんだよ。
なんの疑いもない、無垢な瞳が俺を離さなかった。




俺は奇跡を信じるしかなかった。

あの人もお前も、無事に全てが終わることを、信じるしかなかった。


なのに…



“結女ちゃん、ありがとう”

“十夜くん、ありがとう”



伝えたい言葉も、伝えたい想いも、沢山あった。


きっとあの人は、最後まで生きるつもりだったんだ。


これからの三人の生活を、夢見ながらきっと“一瞬”目を閉じるつもりだったんだよ。



なのにあの人は、その目を二度と開けなかった。

俺を握った手をするりとすり抜けて


逝ってしまった。




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