花が咲く頃にいた君と
今でも覚えてるよ。

出産後の疲労感に、苛まれる虚ろな瞳

だけど何よりも誰よりも希望に溢れ、結女を慈しむ瞳



なのに握った手から抜けていく力、最後は俺の手をすり抜けて


ベッドに落ちた。




とても優しい人で、笑顔が良く似合うそんな人………だった。




残された俺は、もうどうすればいいか解らなかったよ。



ただ意味のわからない虚無感と絶望感、もう言葉に出来ない程


感情が高ぶって、なのに動き出せなくて、暫くは瞬きも出来なかった。



あの人が逝って、俺の全てが終わった気がした。


けど初めてお前抱き締めた時、“ここで終われない”と思った。



お前は温かくて、小さくて、守らなきゃいけないと思った。


まだ目も見えないお前が、真っ直ぐに俺へ手を伸ばすのを、俺は涙ながらに必死に答えたよ。




お前は、あの人が残した忘れ形見だ。


俺の何にも換えがたい宝物なんだ。




…―――――十夜の目が赤くて、あたしはもう俯くしかなかった。

十夜の愛情はわかるよ。
けどお母さんを十夜から奪ったのは、他でもないこのあたし


責めずにはいられない。

もしかしたら十夜はそれを恐れていたのかもしれない。


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