花が咲く頃にいた君と
お母さん、何であたしを産んだの?


みんなあたしなんか求めてないんだよ。



お母さんさえ居てくれれば、それで十夜達の世界は

淀みなく回っていけるのに。



「こーら。柄にもなく悲観的になるな。言ったろ結女はあの人の希望で、俺の宝物なんだから」


こつんと頭が小突かれて、瞳を細めた。




「結女、そんな風に自分を責めるのは止しなさい。
君は祝福の中産まれてきたんだ、何も謝ることはない。

気が済まないのなら、優香の分まで、人生を楽しみなさい」



十夜とお爺さんの優しい眼差しに、あたしは涙を溢さないように、奥歯を噛み締めて頷いた。



「それに優香は、結女のお陰で最期まで、満たされた人生を送ったに違いない。

まだ私の元に、優香が居た頃、あの子は何もない。空っぽな人間だった。


けど、彼と出会い恋をして、結女を身籠って、優香の人生は空っぽじゃなくなった。

きっと毎日、充実してただろう。」



お爺さんの目も、十夜の目も真っ赤で

あたしもつられるように、涙がポロリと溢れた。



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