花が咲く頃にいた君と

さよなら、ボロアパート

「まぁ、ココアでも飲めや」


突然飛び込んできたあたしを、下宮比さんは驚くことなく出迎えて


今は二階の自宅で、湯気の立ち上るマグカップを目の前に置いてくれた。



「何があったんだ?」

下宮比さんは、いつもストレート。



だいたいのことは十夜から聞いてるの、察してくれるけど。

基本的には、話し出すまで待ってはくれない。



率直に尋ねられる。




「十夜が、ボロアパートから引っ越そうって」

「ほー。良かったじゃん」

「良くないよ!あそこは“お母さん”の思い出が詰まってる場所だし、何より十夜が大切にしてきた場所だよ!」

「あいつは何て?」



声を荒げるあたしに対し、下宮比さんは冷静に問いかけてくる。


「過去にしがみついてるわけにはいかないって」

「なるほどな」




下宮比さんは一人で納得して、喉の奥を鳴らすよう、くくくっと笑った。


下宮比さんと十夜は深いとこで繋がってる。
だから、あたし伝いに聞いた話でも、よく十夜の気持ちを理解してくれる。


< 249 / 270 >

この作品をシェア

pagetop