花が咲く頃にいた君と
下宮比さんは一頻り肩を揺らして、笑うと咳払いを一つして話してくれた。


「今回のことが、相当響いてるっぽいぞ。それでやっと振りきろうとしてんじゃねぇかな」


穏やか声に、あたしも冷静になって、耳を傾ける。


「今回のこと?振り切る?」

「結女が手元から居なくなって、あいつ毎日生きた屍状態だったからな。

結女が意識無いまま、手元に戻ってきたときの、あいつの顔と言ったら…

俺でさえ恐ろしかったぞ。まぁ、あいつもいい年だし、所構わず暴れたりはしなかったけど、きっと暴れてたら止められなかったな」

「十夜と離れるのは、今回が初めてじゃないのに?」

下宮比さんの楽しそうな声に、あたしは信じられずに、横やりを入れる。

「あの時とは、状況が違うからな。

今回のことで、気付いたんだろ。生きてる結女が、死んでしまった優香さんより、どれだけ価値のある存在か。

あいつには前科があるからな。結女がイジメを受けてる時、助けてやれずそれどころか気付いてさえやれなかった。

あの時のアイツは優香さんのことで、いっぱいいっぱいだったからな」


荒んだ過去を思い出す。


何だか凄く胸が苦しくて、両手でマグカップを握り締めた。



< 250 / 270 >

この作品をシェア

pagetop