花が咲く頃にいた君と

迷子の黒猫

夜と昼とじゃ雰囲気がまるで違う。


あたしは怖がりではないけれど、さすがにこんな雰囲気を持ったお屋敷で独りにされるとビビる。



オレンジ色で満たされていた渡り廊下を、今は青白い光が満たしている。


廊下をゆっくり歩いていると、またしてもドカドカと騒々しい足音が聞こえた。


穏やかで静寂な夜には相応しくない音に、あたしの恐怖は煽られる。



あたしは足早に渡り廊下を向け、扉が開けっ放しにされた一番手前の部屋に滑り込んだ。


足音から隠れるように、壁に面して背中を合わせた。


「居られましたか?」

「いえ、こちらには」

「どこにいかれたのやら」



すぐ近くでそんな会話が聞こえて、“探す方は大変だなぁ”と深々と思った。


「てか、何で隠れてんのあたし…」


それからしばらくしないうちに、足音たちはまた遠ざかっていった。


部屋から顔だけ覗かせると、ちょっと異様な光景が続いていた。


200メートルは裕にある通路で、そこに面して部屋中の扉が開け放たれている。



その光景にゾッとした。


何か、人間じゃない的なものが床を這って出てきそうだ。



ダメだ、怖すぎる。

あたしは身体を抱いて、その場にへたり込んだ。


怖い、怖い、怖い。



こんなに広い所に独りだなんて、もう耐えられない。


ギュッと目を瞑り、耳を塞いで、膝を抱えた。


目を瞑っていないと何かを見てしまいそうで怖い。


耳を塞いでないと、何かを聞いてしまいそうで怖い。


身体を縮めてないと何かに触れられそうで怖い。



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