花が咲く頃にいた君と
どうやら今は、数学の時間らしい。

そろーと流した視線の先に、意味の分からない数式が黒板に書き連ねられている。


「ありがとう」

人の行為は無駄にするものじゃない。

だから、躊躇いもなく彼のノートを写させてもらった。


彼を一瞥して考える。

席替えをした覚えはないし、きっと彼はずっと前からあたしの隣だったんだろう。

それにしても、存在感…薄。


あたしがいうのもなんだけど、彼の存在感は薄すぎる。


彼みたいな人のこと、なんていうんだっけ?

最近、流行ってるよな。

えー、あー

「草食系男子」

「ぷっ…」

思い出して思わず声に出したら、間髪入れずに誰かが吹き出した。


「にゅっ」

振り向いてみたら、彼があからさまに顔を反らして、笑いを耐えているらしかった。

肩が震えてる。


「笑うなら、普通に笑いなさい」


彼から借りたノートを写し(当てられたところだけ)終わったあたしは、ノートを畳んで、肩を震わせる彼の頭をパコッと軽くしばいた。


これが多分、あたしの凄いところ。


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